1月9日(水) Endless Game (Tatsuro Yamashita)

 私は今,迷っております.J. C. Campbell教授の日本政治のコースにjoinするかどう
かで.もともとこの1月からは原稿を書くことに専念しようと思っていました.しこしこ集め
たformal theoryやらcontentious politics関係の文献もたまってるし,Lupia and
McCubbinsの翻訳もしたいし(ありがたいことに両先生からは前向きの回答をいただき
ました.あとは出版社探しです).
 しかし,Campbell教授と一緒にJohn DowerのEnbracing Defeatが読めるなんて機会は,
一生のうちにそうあるものではないわけでこれを逃してよいものかという気になります.さ
れど昨日,彼から頂戴したコース・シラバスを読むと,いやあ,きつそうです.これにまじ
めにつきあってかつ原稿が書けるほど,自分の能力を過信できないというのが今の本音.
しかしこれまじめにやったらその分,力はつくだろうなあ.ああ,右せんか,左せんか.

  それはともかく,この日の昼,政治学のJob Talkをのぞいてきました.論題はElements
of Political Accountabilityというものでした.political accountabilityという概念を分析的
に用いることは難しそうだなあというのが私の現時点での率直な感想です.論者はpolicy
issueごとにpolitical accountabilityが担保される状況(彼はこれをinstitutional
arrangementと呼ぶ)を考えようとしていましたが,そうすると尺度の一般化が難しくなり,
issueを越えた議論が困難になります.しかも彼がinstitutional arrangementと呼ぶものは,
どちらかというとpower structureといったほうが理解しやすいもので,彼はその目安に権
力の分散−集中の度合いを用いていましたし,おまけにそれがpolicy issueごとに異なる
ことを強調していました.
 このため彼の議論はオーソドックスな多元主義批判(たとえば新川敏光氏が『日本型福
祉の政治経済学』三一書房で展開しているような)からは逃れられなくなっています.論
者はマス・メディアの重要性を強調していましたが(どっかで聞いた話やなあ),これにし
ても具体的にメディアと政治権力の関係にどうアプローチするのかが,彼の報告からは
よくわかりませんでした(私の英語力がなかっただけかもしれませんが).

 ちなみに日本のマス・メディアについて最近出版された政治学の本としては,
Laurie Ann Freeman, Closing the shop: Information Cartels and Japan's Mass Media,
Princeton University Press, 2000.があります(とかいってこれもまだきちんとは読んでい
ない(;-;)).
また,Hall, Ivan P.  1998. Cartels of the Mind: Japan's Intelectual Closed Shop.
W・W・Norton & Company.
の第2章も参考になるでしょう.

 日本を含んだいわゆる先進国のメディアについての政治学的研究としては,
Richard Gunther and Anthony Mughan (eds.) Democracy and the Media: A Comparative
  Perspective.
Cambridge University Press. 2000があります(これもまだ(;-;))が,いずれ
にしても,メディアと政治権力の関係を政治学がどう理論化するかについては,未だにオ
ープンな課題であるというべきでしょう.これについてはゲーム理論的なアプローチによる
貢献の可能性がありそうに思えます.
 ただpolitical accountabilityとなると,これは評価の問題ですから,特定の政府が特定
のissueについてどの程度accountableであるのかを,有権者・有識者などに評価させ,
その評価のギャップが何から生じるかを特定する作業が必要になるでしょう.ここで仮に,
1つの政府に限定して考えるのであれば,issueごとにメディアと政府の関係が異なる場
合を除いて,メディアという変数を考慮することは,おそらく余り重要ではなくなるのでは
ないでしょうか.
 そうではなく,異なる政府間のpolitical accountabilityを問題にするのであれば,やは
り複数のissueにまたがった(というか特定のissueに拘束されない)評価尺度の構築が必
要になるでしょう.そう考えるとやはり,Job Talkにおける報告者のアプローチの有効性
には疑問符がつきます.

2002年1月