掃除をしている間はどうしてもさまざまな紙の始末に追われることになる.
そしてそれらの紙の中に,つい読みこんでしまうものが現れて来たりするの
もまたよくあること.
 今回,僕の掃除の時間に割り込んできたのは,秋野豊ユーラシア基金
『秋野豊賞調査報告集 ユーラシアの平和と紛争 Vol.1,2001』 だった.以
前に日本から転送されてきた郵便物の中にまじっていたのだが,これまで
ゆっくりと読む機会がなかった.
 1999年12月に第1回の秋野豊賞を受賞した3人の方々の報告は,どれも
非常に興味深かったが,中でももっとも私の心を揺さぶったのは,森田太郎
さんの「サラエヴォに灯る希望の光−サッカーを通じた民族和解の試み−」
だった.内戦の結果として生まれた民族間の憎悪.その中で森田さんが,民
族を超えて一緒にプレイする子供たちのサッカー・チームを作るために奮闘
した記録である.このドキュメントのすばらしさを皆さんに伝える言葉を,情け
ないことに僕は持っていない.だけどどうかもしご関心をもたれたら,秋野豊
ユーラシア基金事務局に問い合わせて,一読してみて欲しい.森田さんのド
キュメントは,僕の人間に対するシニシズムやニヒリズムに大きな風穴を空け
てくれた.
 この報告書から得た感動はそれだけではない.3人の受賞者はそれぞれ
50万円ずつ与えられ,それぞれのプロジェクトを進めた.報告書には当然,
会計報告書も含まれている.この会計報告書を見ただけで,3人の受賞者
が全員,どれだけこのお金を大切に使ったか,一銭たりともいいかげんに使
っていないことが,ほんとうに手にとるようによく分かる.会計報告書だけでこ
んなに感動したことは,これまでなかった.
 秋野先生がああいう死にかたをされなければ,この基金も生まれていなか
ったろう.いくら惜しんでも惜しみ足りない秋野先生の死が,まさかこんな形
で僕に感動を与えてくれるとは全く予測できなかった.虎は死して皮を残す
というけれど,秋野先生が自分の生き方を貫かれた結果,そしてそれが多く
の人を動かした結果がこれだと思うと,秋野先生を失った悲しみの幾分かは
報われたような気さえする.

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