2003年7月の近況


7月28日(月) I'll be back again

 こちらでの研究生活もほぼおわり.いよいよ本格的な撤退準備に入る.今日
は私のHost ProfessorであるRonald Inglehart教授にランチをおごってもらった.
1年に5本論文を書くのが普通という,われわれのスタンダードからは考えられ
ないくらい精力的な執筆活動,そして出す本はかならず評判になるという大先
生で,本学社会学部の真鍋一史教授とも懇意な仲とか.
 その彼に成功の秘訣を尋ねるとにっこり笑って"good luck".
 「もちろん一生懸命頑張ったけど,ものすごく大きな幸運に恵まれた」と.
  こちらのbig nameである先生方と接して思うが,基本的に彼らは非常に人当
たりがいい.もちろん内心ではいろいろ思うところもあるのだろうけれど,だい
たいいつもにっこり笑って対応してくれる.Inglehart教授ももちろんそうで,誰
かと会うたび大きな声で"Hi, there!"である.幸運を呼びこむ性格というのが
どうもあるような気がする.
 前の金曜日に彼は出張から戻ってきた.彼のオフィスに行ってこれまでの
お礼を言い,日本に帰ったら「政治文化論」を教えるので,あなたの議論を
学生に紹介しますと言うと,「それじゃあ,君に出たばかりの本をあげるよ」と
言ってPippa Norrisとの共著本Rising Tide: Gender Equality and Cultural Change
Around the World.
Cambridge Univ. Press をプレゼントしてくれた.そして彼も
言ってくれた.「またAnn Arborに戻っておいで」と.



7月17日(木)

 昨日珍しく12時間も研究室で頑張ったリバウンドで,今日はまったくエンジンがかからない.
大学近辺はArt Fairでお祭り状態であるが,あっしには関わり合いのねえことでござんす.
Achen, Christpher H. 1992.  "Social Psychology, Demographic Variables, and Linear Regression:
  Breaking the Iron Triangle in Voting Research."  Political Behavior (14; 3): 195-211
を読んでへこみ,
Kollman, Ken. 1998. Outside Lobbying: Public Opinion and Interest Group Strategies.
  Princeton University Press.
を読んでタメイキ.

(B.G.M. 「サービス・クーポン」スガシカオ)
 

7月12日(土)

 長崎で4歳の男の子が12歳の中学生に殺害された事件関連の報道(といっても私は
日本にいないので,もっぱらhttp://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/nagasaki_abduction/
に頼っているのだが)をざっと見て愕然とするのは,そこで伝えられる事件に直接関係
のない人達の感情的な対応である.犯行を行なった中学生の中学校に電話が殺到し,
その対応で学校関係者が疲弊しているという.
 この手の事件が起きると毎度のことではあるが,ウンザリである.問題行動を起こし
た当事者,その親,学校を叩いて,この種の事件が再発しなくなるのであろうか?被害
者の親御さんが言われるように当事者を極刑にしたところで(私も子持ちなので,自分
の子供が同じ目にあったら同じ気持ちになるだろう),青少年育成推進本部担当相であ
る鴻池祥肇参議院議員(この方,兵庫県選出ですね)が言ったように加害者の親を打ち
首にしたところで(ちなみに私が被害者の親なら,加害者の親どころか,その血統その
ものを抹殺できないものかと思っても不思議でない),この手の事件の再発が防げると
はとても思えない.問題行動を起こした人間を社会から排除すればそれでよしというも
のではないと思うのだが.
 短期的には被害者の親御さんに対するメンタルなケア,そしてその中学校の生徒に
ついてもやはりメンタルなケアが必要だろうし,そこの教員に対してだってこの先の生
徒指導をどうしたらいいかについて専門家の支援が必要.
 あと小さなお子さんをお持ちの親御さんには,一緒に外出するときにたとえばベルト
のようなもので子供が勝手に遠くに行かないようにすることを奨励するとか.
 傷ましい事件だけに再発しないように知恵を絞って欲しいものだ.
 
 親としてよく思う.自分が可愛がってせっせと口に食べ物を運んでいるこの子が,も
しかしたら酒鬼薔薇のように人を殺すかもしれないし,サリンをまくかもしれないし,ヒ
トラーになるかもしれない,そうしたら自分はどうしたらいいのだろうと.
 人間は天使にも悪魔にもなれる.親としては我が子の悪魔性のようなものが目覚め
ないように祈りつつ,自分で自分のネガティブな部分をうまく制御し,周囲に愛され,尊
重される人間になりますようにと祈りながら,できることをするだけである.
 娘たちとこの事件について話したとき,「加害者の少年に兄弟はいるのかなあ.いた
らその子は大変だよなあ」と言った.その後,娘たちはケーブルテレビで日本のニュー
スを見たらしく,私に「加害者の子には兄弟はいなかったみたいだよ」と教えてくれた.
あとで妻が言うには「お父さんが気にしていたから」と熱心にニュースを見ていたらしい.
この幸福がずっと続いてくれますように.


7月11日(金)

 とりあえず今週は真面目に研究に勤しんでいる.今月中にオフィスを引き払い,
以後は引越しの準備と体調管理に専念する予定である.
 そんな中で嬉しいメールが届いた.大学の後輩にしてMSUの名物男,「Lansing
に過ぎたるものが2つあり.Capitol Hill に Ko Maeda」と謳われる(ウソ)前田耕氏
からAnn Arbor訪問+飲み会のお誘いである.彼の"Eye of the Tigar"が聴ける
ことを楽しみにしている.畏友岩崎正洋氏からは「アメリカでもしょっちゅうカラオ
ケに行ってるんでしょう?」などとからかわれる私だが,まったくなし.でも今回ば
かりは最初で最後のミシガンカラオケ大会になるかも.
 お楽しみは来週末.それまでせっせと仕事をすることにしよう.

 なお,トップページに全国犯罪被害者の会へのリンクを張ることにしました.
この会は大学院同期の友人,山上俊夫弁護士が所属する岡村綜合法律事務所
代表岡村勲弁護士が立ち上げられたものです.
 

7月7日(月) Almost Paradise

 七夕であるが,アメリカではあまり関係ない.4日から6日まで家族とUpper Peninsula
方面へ旅行.まずはTraverse Cityに行って近くの砂丘を登り,独立記念日の花火を
拝んで,cherry festivalをちょっとだけ見る.このあたりはCherry Capital of the World
であるそうなのだが,不思議とcherry自体はそんなに見かけなかった.航空ショーを初
めて見てすごいものだと感心.その後Upper Peninsulaへの橋を渡り,ミシガン最北の
地Sault St. Marieへ.Upper Penisulaに入るとほとんど農業の雰囲気はなく,狩猟民族
の土地という感じ.毛皮をつるして売っているのが車から見えた.
 Sault St. MarieはLake HuronとLake Superiorのちょうど継ぎ目にあたる街で,カナダ
との国境にあたる.橋を一本渡ればそこはカナダ.ただし地名はこれまたSault St.
Marieで同じ.遠めに見てもカナダ側の方が建物もきれいで栄えているように見えた.
こちら側はうらぶれた港町という感じだが,それでも雰囲気はよかった.ここでは
Boat Tourがあって2時間で,Lake HuronとLake Superiorを見せてくれる.大人1人
20ドルくらいだったか.HuronとSuperiorは湖面の高さが違うので,移動するときに
ドックに入って水面調整を待ってから移動する.話には聞いていたが実際に見てみ
るとそれなりに感動.こういうことを考えかつ実行に移すのは大したものである.
 Boat Tour後はParadiseという街にある滝を見に行く.スゴイ名前の街だが実際は
うらぶれたド田舎である.それでも穏やかでいい感じで時間が流れていき,普段の
あくせくした生活が嘘のようで,非常にリラックスした気持ちになれた.
 そんな地上の天国を離れミシガン最北端の町からAnn Arborに帰宅したが,なか
なか現実にもどれずまだ少しぼうっとしている.まあ,今夜は七夕だし,たまにはい
いか.


7月2日(水) What a wonderful world.

 ついに38歳になってしまった.お師匠様には「30代で本を出せないと一生出せない」
といわれているのだが,その30代もあと2年でおしまい.人生はまことに短い.
 昨夜は37歳最後の日ということで,中1になる娘と二人でMichael Mooreの"Bowling
for Columbine"を,Ann Arbor郊外にあるVillage Theaterに見に行った(なんと二人で
5ドル!).最後の日といっても日本時間ではとっくに2日であり,お祝いメールもいた
だいてはいたが,まあ気持ちは現地時間である.
 私にとってこの映画を見るのは2回目だが,娘は初めて.娘にはぜひこの映画を見
てもらいたかったので,ちょうどよかった.もっとも映画自体は面白かったらしいが,夜
10時からの上映だったのでえらく眠かったようである(普段は10時には寝かすように
している).にしてもやはり英語では苦労する.最初の方に出てくる黒人のエンターテ
イナーのしゃべりは2回目だというのにまったく聞き取れなかった.娘にとってはなんと
もなかったようで,このあたりはやはり後生恐るべし,である.
 この映画の中で2回 "What a wonderful world" という曲が流れる.確か,いずれも
人が死ぬシーンで.手塚治虫原作で大友克洋が作った『メトロポリス』という映画(これ
もこっちで家族と見たが)でもこの曲は使われていたが,その時の背景はメトロポリス
の崩壊だった.破壊と殺戮のシーンでこの曲が使われるのは,実に微妙なアイロニー
だけれど,われわれが生きているのはそういう世界で,そしてそこで生き,時として殺し
あう人間という存在自体をこの曲がやさしく包み込んでいるように感じる.

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