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12月20日(木) "It's a small world"

  昨日のパーティで,Arthur Lupiaと話した後,彼の著書
Arthur Lupia and Mathew McCubbins (1998)  The Democratic Dilemma :
Can Citizens Learn What They Need To Know?, Cambridge University
Press を一読.非常に面白かった.
 この著書の興味深い所は,

以下の主張
*1 人間の選択(reasoned choice)において,完全情報は必要ではなく,行
  動の結果を予測する能力(彼らはこれを「知識(knowledge)」と呼ぶ)があ
  ればいいこと.
*2 人々は判断材料としての情報を収集するかわりに,他者からの助言に依
  存すること.
*3 ただし人々は他者からの助言を全て受けいれるわけではなく,選択的に
  受容すること.そしてその選択はシステマティックかつ予測できるものである
  こと.
*4 政治制度が助言者の誘因(incentive)を明示すれば,それは人々が誰の
  (どの)助言に従うべきかを選択する助けとなること.

を,formal theory,Laboでの実験,survey experimantによって支えている所で
ある.

 特に*4の主張は政治制度の設計を考える上で極めて重要である.
 代議制民主主義の作動において「委任(delegation)」というものはきってもき
れないもので,全ての人間が全ての問題に取り組むことができない以上,何ら
かの形で信頼できる専門職に仕事を委任せざるを得ない.そして仕事を依頼
する人とされる人との間には,いわゆる本人−代理人関係(principal-agent
relationship)が成立する.しかしながらこの関係,必ずしも本人と代理人の間
で利害が完全に一致しているわけではないから,代理人に対する適切な監視
の制度がなければ,代理人が自分の利益のみを考慮して行動した場合,結果
的に代理人に仕事を依頼した本人の利益が損なわれる可能性がある.これが
いわゆるエイジェンシー・スラック(agency slack)と呼ばれるものである.
  エイジェンシー・スラックが頻発すれば当然,本人の代理人不信はたかまる.
いわゆる「政治不信」もこのエイジェンシー・スラックによるものと考えることがで
きる.
 また日本の政治学ではまだ手をつけられていない「実験」という手法を用い
ている点も興味深い.社会心理学や経済学でなら日本でもすでに例があるの
だが,これは現在「はやいもんがち」の状況である.理論による問題の抽象化
と理論命題を検証する際の実験手法の用い方は,なかなか参考になる.
 しかもこの本,文体はなかなか平易でfriendlyだし,数理の証明は巻末に
appendixとしておいてあるしで,ラッチョ嫌い,formal theory嫌いでも比較的抵
抗なく読めるものとなっている.日本語だったら大学生でも一般読者でも内容
的に関心を持つ人もいるのではないか.
 ということであんまり感心したので,きょう早速Lupiaにメールを書いて,「よか
ったら翻訳させていただけませんか?」とお願いしてみた.もちらんこれを機に
formal theoryと実験の手法について,直接Lupiaからいろいろ教わろうという
魂胆である.でもこれだけの本だから,すでにどなたかが予約済みかな?.
 というわけでArthur Lupia 接近プロジェクト進行中なのだが,昨日のパーテ
ィではNancy Burnsとも会話することができた.こちらともぜひお近づきになり
たいと思っている.彼女の近著 Nancy Burns, Kay Lehman Schlozman, and
Sidney Verba 2001 The Private Roots of Public Action: Gender, Equality,
and Political Participation
 Harvard University Press もすばらしい本である.
 いずれにせよLupiaもBurnsも自分と歳がそうかわらないのにエライもんであ
る.僕ももう少しなんとかしなきゃな.


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